フナフナベイベ

徒然に一人語る読書感想文。 雑食ですが趣味嗜好はかなり偏っておりますのでご注意を。

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2008-07-26-Sat-22-36

イトウの恋

イトウの恋/中島京子/講談社文庫

評判がいいので買ってみました。中島京子、初読みです。

物語は熱血中学教師・久保が郷土部である文献の研究をやってみようと発案するところから始まる。
その文献とは、久保の実家で発見された明治期の回顧録だった。しかし、その書き手は久保の祖先ではないようだ。
日記の書き手は伊藤亀吉。明治初頭の日本において、英語通訳として活躍した人物である。
この作品は、現代日本に生きる久保が体験する「伊藤亀吉の日記を巡るフィールドワークとそれに伴う興味深い人間との出会い」と、伊藤亀吉が回顧録で語る「若い頃に出会った決して忘れ得ない女性I・Bとの交流について」の物語が交互に語られる。

現代日本に生きる教師・久保は、回顧録が途中で途切れていることが気になって仕方がない。必ずどこかに続きが保管されているはずだと思い、独自の調査を開始する。その過程で出会ったのが伊藤亀吉の子孫・田中シゲルである。
田中シゲルは元モデルの劇画原作者という変わった経歴の女性。彼女の元には手記の続きは存在せず、はじめは門外漢の歴史的文献にもさっぱり興味を持たなかった。しかし久保の熱心な説得と実際に伊藤亀吉の手記を読んでみたところ、彼女もまた自身の祖先の回顧録の調査に参加するようになる。

一方、伊藤亀吉の回顧録は、そのほとんどを英国女性探検家I・Bについての思い出で占められている。横浜で生まれ育った伊藤は、港を出歩き、学校に通わずともそれなりの英語を身につけた。それを己の糧とし、通訳として生活をするようになる。
しかし欧米人による日本人差別や日本文化への無理解に立腹することも多く、英語が出来るのだという自負と欧米人への反感への板ばさみのような心境に陥っていた。そこで出会ったのが一人で日本を探検したいのだという英国女性I・Bだった。
I・Bは伊藤を下僕のようには扱わなかった。日本語も積極的に覚えようとし、訪れる先の地方でカタコトの日本語を喋り、現地の住民とコミュニケーションをとろうとした。苦しむ病人がいれば薬をわたし、興味深い日本文化に触れればその解説を伊藤に求めた。彼女は決して日本と日本人を未開の存在として扱わなかった。
伊藤はそんなI・Bと旅を続けるうち、ずいぶんと年上のはずの彼女に恋心を抱くようになる。
しかし彼女は伊藤の気持ちに応えようとはせず・・・・

と、まあ、それから先を言ってはネタバレですね。
タイトルの通り、この物語は伊藤亀吉の手記のほうに重点が置かれています。彼の視点からつむがれる明治初頭の日本・横浜というのは、まだまだ江戸を引きずりつつも新たな文化が一気に押し寄せてきたという熱気と混乱がうずまく世界で、それがまた魅力でもあります。
日本人であるという誇りと欧米人に対する劣等感というのは、現代日本人にもなんとなく察しがつくところでもありますし、回顧録の中での伊藤の若さゆえの行動というのもどこか理解できるもので、伊藤という人物が身近に感じられるのです。
しかし、だからといって現代日本の久保&シゲルの魅力がそれに劣るものというわけでもありません。
「異文化に属する男女の交流」という点では、伊藤とI・Bの二人にも共通するところのある二人。実直だけがとりえのような教師・久保と、山あり谷ありの波乱万丈な人生を送ってきたシゲル。最初は全く相容れない二人だったのですが、調査のための出会いを重ねるたびに、相互理解を深めていきます。

伊藤の回顧録が語る、明治日本の色鮮やかなまでの失われてしまったかつての風俗や青年伊藤とI・Bとのいきいきとした異文化コミュニケーションというのも魅力的ですが、現代日本の久保とシゲルの現実味を帯びつつもなんだか応援したくなってしまうような不器用さというのもまた魅力的で。

なるほどこれは確かに評判になるかもな、と思わせてくれる作品でした。

イトウの恋 (講談社文庫 な 70-2)イトウの恋 (講談社文庫 な 70-2)
(2008/03/14)
中島 京子

商品詳細を見る


ちなみに伊藤亀吉とI・Bにはモデルが実在するようです。
解説を読むまで架空の人物かなと思っていたので、ちょっと驚きました。I・Bが書いた本も読んでみたいです。
この時代の外国人が見た日本、という本は好きなんですよ。好きというか、興味深い。日本人論でもありますし、日本文化論でもあるし。
でも全体的に「不思議で美しい国・ジャポン」というかんじが多いですよね。当時の日本がどれほど礼儀正しく義理と人情に厚い国だったか、というのは本当に外国から訪れた人を驚かせたそうで、100年と少しだけ昔のことのはずなのに、もうすっかり別世界の国のことのように思えてしまう悲しさも感じてしまうのですが・・・

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2010-09-20-Mon-16-11

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